『田園の詩』NO.113 「私の花見」 (2000.5.2)


 「今年の桜は殊のほか見事だったなあ」と、会う人ごとにいわれました。わたしも全く
同感ですが、しかし、思い出してみれば、昨年も同じような会話を交わしたような気がし
ます。桜を待つ心、愛でる気持ちは誰もが強く抱いているからでしょう。 

 若い時はそれ程でもなかったのに、歳をとるほどに桜が好きになりました。数多い
種類の中でも、私は山桜に一番心が惹かれます。初々しい若葉と一緒に開花し、白に
近い薄紅色の花が若葉とともに風に揺れる様は何ともいいがたい風情があります。

 国東半島は≪仏の里≫といわれ、石仏や寺院が郷の随所に沢山点在しています。特
に天然記念物に指定される程の名木はありませんが、寺々を巡って花見を楽しむことは
充分にできます。

 しかし、寺々の花はソメイヨシノか八重桜が大半なので、私は毎年、車で丸い半島を
一周しながら、山桜を探す花見に出掛けることにしています。

 現在、山の木々はスギやヒノキが中心ですが、国東半島は岩石や切り立った谷の多い
地形なので、雑木林の占める面積は結構な率になります。その中に山桜が数多く咲き
誇っているのです。

 山道に覆いかぶさるような大木。掘って帰りたいような衝動に駆られるくらい小さい木。
葉の色は緑から赤と様々、花の色も微妙に違います。車を止め、遠くから眺め、近くに
寄っては見る。私の花見は飽きることがありません。

 恐らくそれらは人が植えたものではないでしょう。鳥が実を食べ種を落として広がって
いった自生の桜です。

 山の中の桜木は、いつもは他の木々に紛れて、遠くからは認識することができません。
花の咲くこの時期だけ、私達にその存在をアピールしてくれます。「キジも鳴かずば…」
と同様に、「山桜も咲かねば見つからない」のです。


     
    おサルさんで有名な≪高崎山≫です。(別府のと言いたいところですが、
    実は大分市です)  ここも山全体に山桜が咲き競います。おサルさんが、
    小さなサクランボを食べて種を撒き 散らかしたのでしょうか。 (08.4.15写)



 歳時記で、「山桜車を停めて美(ほ)めにけり」(青木月斗)の句を見つけました。私と
全く同じことをする人がいるようです。

 今、4月下旬。桜前線は何処まで行ったやら。当地の山桜はもう木々の若葉の中に
隠れてしまいました。               (住職・筆工)

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